内水氾濫抑制に貢献するコミュニティ治水の推進

コミュニティ治水に貢献するグリーンインフラの調査検討・ WS 運営支援業務委託 武蔵野市下水道課(東京都)( 2025年)

概要

本プロジェクトは、武蔵野市環境部下水道課より株式会社ハビタが受託した「コミュニティ治水に貢献するグリーンインフラの調査検討・WS運営支援業務」(令和7年度)として実施したものです。内水氾濫リスクが高い吉祥寺北町地区をモデルとし、市民が関与できるグリーンインフラ(GI)技術を通して、地域コミュニティの協働により浸水被害を抑える「コミュニティ治水」を推進しました。小流域のGI計画から、雨庭の設計、市民協働による施工、施工前後の効果計測、市民による維持管理の仕組みづくりまでを、一貫して行いました。

1. 北町小流域のコミュニティ治水モデルエリア

内水氾濫が発生する北町エリアについて、地形や流域特性、緑地の歴史的変遷、社会資本を分析し、モデルエリアとビジョンを設定しました。

モデルエリアの中央、成蹊大学から大野田小学校までの通りは東西方向の谷筋になっています。表流水が集まり、下水道幹線もこの通りを流れ下って、最終的に内水氾濫ポイントに至ります。この通りは、成蹊大学の緑地や欅並木といった緑の骨格とも連続しており、小流域の軸線といえます。この軸線から支線を伸ばし、GI導入のポテンシャルがある公園、学校、コミュニティ施設、街路、社宅、都営住宅などをつなぐ、回遊可能な「グリーンストリート」を設定しました。各施設の小さな流出抑制の取組がつながることで、小規模分散でありながら共通の目標をもった流域治水が、コミュニティ全体で行われていることが見えるようになります。

                         武蔵野市北町コミュニティ治水モデルエリア図

モデルエリアの小流域内にある公共施設と民地を対象に、雨水の流出抑制に寄与するGIを導入できる可能性(GIポテンシャル)を、施設の種類ごとに整理しました。

【公共空間】
・学校:外構部や正面入口付近の植栽を雨庭として活用するとともに、環境学習や総合学習など授業との連携の可能性がある
・コミュニティセンター:内水氾濫地点に近く、植栽スペースや裏庭を活用した雨庭づくりに加え、市民にGIを知ってもらう「タッチポイント」となる可能性がある
・公園:流域内に大小の公園が点在し、雨庭の実装の場となりうる。コミュニティガーデンやプレイパークなど、緑や土に関わる市民の継続的な活動と結びつけやすい
・都営住宅:雨樋を下水道から切り離してGI化(雨樋非接続)を進められる可能性があり、前庭の植栽空間を活かして住民のガーデニング活動を誘発する雨庭を設置できる

【民地】
・大学:流域内に広い敷地と緑地を持ち、既に構内で流出抑制のためのGIを導入している。地域連携の取組とあわせ、市民・民間協働による流域治水の拠点となる可能性がある
・社宅:まとまった敷地と前庭の植栽を持ち、住民参加による雨庭づくりの可能性がある
・戸建て住宅:駐車場の舗装化による道路への雨水流出が課題であり、雨樋非接続を含めた自宅での小さな雨庭づくりの可能性がある

こうした公共空間と民地のGIポテンシャルを、小流域の軸線に沿った「グリーンストリート」でつなぐことで、各施設での小さな取組が連続し、コミュニティ全体で共通の目標をもった流域治水として見えるようになります。

あわせて、市民ボランティア、地域住民、大学へのヒアリングにより、協働の意向と課題を把握しました。その結果、地域連携に積極的で、既にGIの導入実績がある成蹊大学をハブとし、水や緑に関わる市民活動を基盤にした地域参加を連携していく協働の進め方を提案しました。

2. みやび青葉公園の雨庭の計画・デザイン

内水氾濫地点に近い市立みやび青葉公園をモデル公園として選びました。園内の緩やかな傾斜と表流水の流れを読み取り、表流水が側溝に流れ込む直前の2か所に雨庭を配置しています。

  • 浸透能の確認:ダブルリング式浸透能試験で、雨庭予定地に150〜270mm/h程度の良好な浸透能があることを確かめた
  • 雨庭A:窪地での貯留、ぐり石の空隙での貯留、底面浸透、竪穴浸透を組み合わせた、雑木林の林床をイメージした景観重視のタイプ。植栽根の発達による団粒構造の形成等の土壌改良による浸透能向上も目指す
  • 雨庭B:公園の動線上にあり、歩行による踏圧に耐えながら下層のグリ石貯留と底面浸透させる、利用と両立させるタイプ。ぐり石層の表面は稲わらで覆い、土砂の流入と踏圧を抑えた
  • 対策量:東京都の技術指針を参考にし、浸透量と貯留量の合計を雨庭Aで3.64m³、雨庭Bで73.47m³と算定した
  • 植栽:雨庭Aは、武蔵野の雑木林の林床をモデルにした、在来種中心の半日陰のシェードガーデン(タチツボスミレ、ツリガネニンジン、シュンラン、ミズヒキ、ノカンゾウ、シロヨメナ、カンスゲなど)。雨庭Bは踏圧に強いグランドカバー宿根草(ノシバ、キランソウ、シロツメクサ、カンスゲ、リシマキア、アジュガ)を基本に、人が座れる木陰のグリーンマットをイメージ
公園の標高ラインと雨庭設置予定位置
雨庭Aの実施設計図

3. 市民協働による雨庭づくりワークショップ

2026年2月11日、吉祥寺北コミュニティセンターとみやび青葉公園で、雨庭づくりワークショップを開催しました(主催:武蔵野市、企画・運営:株式会社ハビタ)。前半は、市の取組の紹介に続き、グリーンインフラと雨庭について講義を行いました。後半は公園に移動して、約2時間半かけて雨庭を施工しました。

施工は、造園施工者があらかじめ穴を掘削し、参加者が竪穴の整形、充填材の打ち込み、ぐり石の設置、改良土の覆土、植え付けを役割分担して進める手順にしました。子どもからシニアまで、誰もが力に応じて参加できるよう組み立てています。参加者は19名で、アンケートでは満足度、GIの理解度、管理への参加意欲がいずれも良好でした。

各雨庭には、目的と構造、植えた植物を紹介するサインを設置しました。サインは、公園利用者と流域治水をつなぐ「タッチポイント」として位置づけ、手入れに関わる仲間の募集もあわせて呼びかけています。

4. 効果の計測

雨庭および、雨庭集水域が流下する側溝に圧力式水位計を設置し、施工前後の降雨時の流出量を各雨庭の集水面積ごとに計測しました。その結果、雨庭Aでは流出率が35.5%から2.4%に、雨庭Bでは83.6%から47.0%に低下し、流出抑制効果が確認されました(施工前後で降雨条件は異なります)。

5. 市民が関われる維持管理とモニタリング

雨庭の維持管理の方法を、植栽や土といった「自然資本」と、コミュニティガーデン運営の「人的資本」の両面から整理しました。雨庭ごとに、次のような手入れのメニューを提案しています。

  • 選択的除草:雨庭Aは5〜7月の成長期に毎月行う。雨庭Bは背の高い雑草が目立ってきたら切り戻しで成長を抑える
  • 堆積物の除去:窪地にたまった土砂やゴミを取り除く
  • 補植・灌水・施肥:植生の状況を見ながら行う
  • 点穴土壌改良:グリグリ棒で穴を掘り、落ち葉や枝を詰める

あわせて、市民が自分たちで続けられるモニタリングの方法を提案しました。

  • ダブルリング式浸透能試験による、雨庭の浸透能の確認
  • 大雨のときの水たまりの有無と、水が引くまでの時間の記録(写真撮影など)
  • 手入れを兼ねた、土砂の堆積や植物の生育状態の観察

竣工後の2026年6月24日には、ワークショップ参加者の有志とともに手入れを行い、ハビタが現地で指導しました(自主事業)。選択的除草、流入した土砂の除去、生育状況の観察など、提案した管理手法が市民の手で実践されています。

施工6ヶ月後の雨庭A。窪地に多様な在来種植栽が成長している。
施工6ヶ月後の雨庭B。踏圧に耐える地被類(地下には浸透貯留層)が形成。

6. 市域のGIポテンシャル評価

市全域の公共空間と緑地について、GISで地形、小流域、歴史的緑地、内水ハザードを重ね合わせました。そのうえで、公共空間や水系、道路、緑道、駅前との連続性と、浸水危険性の2つの軸で評価し、GI導入のモデル緑地を10か所選定しました。選定した公園や公共空間においてはGI導入の方向性をスケッチで示しています。

            市域におけるグリーンインフラポテンシャルの分析

7. 発信

ワークショップの様子を約2分の動画にまとめ、web用の記事も制作しました。編集方針は、①取組の目的を分かりやすく伝える、②GIに関わる楽しさを伝える、③参加者の思いを伝える、の3点です。


主な成果

  • 北町小流域のコミュニティ治水モデルエリアとグリーンストリート構想の策定
  • みやび青葉公園における雨庭2か所の計画・設計と、市民協働による施工
  • 施工前後の流出量計測による流出抑制効果の確認
  • 市民が関われる維持管理・モニタリング手法の提案と、竣工後の市民による手入れの実践
  • 市域GIポテンシャル評価とモデル緑地10か所の選定

ハビタの担当範囲

業務全体の企画と実施方針の立案、ランドスケープ解析とモデルエリアGI基本構想、ステークホルダー調査、市域GIポテンシャル評価、雨庭の計画・設計、浸透能・流出量調査、ワークショップの企画・運営と講義・施工指導、サインの企画、維持管理・モニタリング手法の検討、動画・記事の制作、竣工後の手入れの指導(自主事業)

関連リンク